2009年、介護報酬改定や介護職員処遇改善交付金、緊急雇用対策での介護人材育成などで介護をめぐる状況は大きく変わった。1999年から全国老人福祉施設協議会の会長として活躍してきた中村博彦氏(自民党参院議員)の後を受け、09年5月に会長に就任した中田清氏はこの一年をどう振り返り、10年をどう展望しているのだろうか。
―09年を振り返ると、どんな一年でしたか。
09年は介護報酬のプラス改定や、介護職員処遇改善交付金など、介護・福祉業界にとっては光が差した一年でした。また、雇用創出でも介護がクローズアップされるなど、介護に対する国民の関心が高まったとも言えるでしょう。
―4月の介護報酬改定で、3%アップが実現しました。
これまで2回にわたるマイナス改定がありましたが、今の経済状況では3%アップを実現するというのは難しいと思っていました。しかし、介護人材の確保・定着に向けてプラス改定が決まったことは高く評価したいですね。
―今回は加算による引き上げがメーンで、基本報酬部分のアップはほとんどありませんでした。
全国老施協の会員は北海道から沖縄までおり、特別養護老人ホームの規模も30人の施設もあれば、100人の施設もあり、規模もまちまちです。加算を取れる施設はいいですが、取れない施設も出てきます。そのため、「報酬アップ」が決まった後も、審議会などの場で「賃金の一律底上げが必要」と主張してきましたが、残念ながらそれは実現しませんでした。
―報酬改定を踏まえ、全国老施協としてはどういった活動をしてきたのですか。
09年の5月から各都道府県を回って、管理者・事務長などを対象とした「3年戦略セミナー」を開催し、加算取得のノウハウを説明してきました。その効果は、新設された「日常生活継続支援加算」の取得率が、4月に51.1%でしたが、8月には60.8%まで伸びました。特に、「夜勤職員配置加算」は4月に43.3%でしたが、8月には60.9%まで上がりました。
確かに、地域によっては有資格者を確保したり、職員を厚く配置したりというのは難しいという声も聞きます。加算は利用者サービスの対価です。有資格者や人員の配置が厚い施設など、国民は高い水準のサービスを求めているのです。会員にはサービスの質を高めることをお願いしています。全国老施協は、それをバックアップするために研修などを強化しているところです。
加算を取得する上では、施設の経営能力や人事管理能力が問われます。また、12年度の次期改定では、新設された加算の一部は基本単価に入るのではないでしょうか。それまでの間に、有資格者を施設内でどう養成するかが課題になるでしょう。
―介護職員処遇改善交付金が今年度の補正予算に盛り込まれました。
交付金は、われわれにとっては大変ありがたい制度です。すべての事業者が申請して、職員の処遇改善につなげてほしいと思います。
介護報酬の3%アップはありがたいですが、必ずしも十分ではないこともあり、介護職員の賃金アップのための補正予算を組んでもらうため、全国老施協としても政府への働き掛けを行ってきました。全国老施協の活動でこの交付金が実現したと自負しています。
これからは、この交付金を受けて職場をどう改善するかが課題です。介護職員の力を向上させ、提供するサービスの質を高めるしかないと思います。
―介護職員に限定している点についてはどうお考えですか。
もちろん、問題という声があることは認識しています。われわれは、この制度の実施に当たり、昨年度と今年度の賃金改善を比較する際に、4月の定期昇給分も賃金改善に含むように要望してきました。例えば、4月に1人当たり5000円の定期昇給をしていれば、交付金で1万5000円相当を受け取った場合、そっくりそれを介護職員の処遇改善に充てる。すると、定期昇給分の5000円分を介護職員以外の職員の処遇改善に充てることができます。チームケアを重視する中でも、経営者が知恵を出すことで、職種間でのバランスは十分に取れると思います。
―特養での医行為モデル事業が行われました。
この問題は、特養入所者の重度化とともに大きな課題でした。全国各地で行っている意見交換の場でも、現場の若手介護職員らから「法律違反の医行為をせざるを得ない」との悲鳴ばかりが聞こえてきます。利用者が重度化、病弱化する中で、現行の報酬体系では看護職員の採用は難しいという状況です。
われわれは18-19年度にかけて、特養の医行為についての実態調査を行いました。すると、約30%の施設が夜間を中心に、たんの吸引などを行っていました。そのため、早急にこの問題を解決してほしいと審議会などで訴えてきました。
―問題の解決に向けて、どのような対策を取るべきですか。
最低限、家庭で行われている行為については、特養で専門職の介護福祉士ができるように認めるべきというのがわれわれの主張です。利用者の重度化や病弱化が避けられない中で、たんの吸引、経管栄養、褥瘡の処置の3点について処置の範囲などを早急に整理し、医行為から外すことを要望したいです。
―厚生労働省の地域包括ケア研究会は09年5月に、「30分以内に駆けつけられる圏域で、医療や介護のサービスが適切に提供できるような地域の体制を構築することが必要」との検討結果をまとめました。
この報告書では、入所施設での介護・医療サービスを「外付け」で行うという方向が示されています。しかし、これが可能なのは全国でも限られた地域でしょう。現在、在宅での介護が可能になっているのは、子どもが4、5人いた団塊世代が交代で親の世話をする「家族介護力」があることが前提になっています。子どもの数が急激に少なくなる中で、これを継続するのは難しいです。
また、07年度の調査ですが、家族などの介護をするために仕事を辞める人は全国で約15万人もいます。こうした人がどんどん増えてしまっては、日本経済は持ちません。こうした状況が、在宅での高齢者虐待の増加にもなっているなどの問題もあります。
これらの点を踏まえると、今後はさらに施設整備の重要性が増すと考えられます。特養待機者45万人の半分に当たる20万床分を緊急に整備すべきです。
―整備を進めるために必要なことは何ですか。
整備のためには財政的な措置が必要です。25年までに特養を100万床整備した場合、約50万人の介護従事者が新たに必要になります。彼らの給料を賄うためには、年間約2兆5000億円が必要になりますが、これは消費税のおよそ1%分です。消費税1%分の負担で、困ったときにすぐ特養に入れる、安心して老後を迎えられる体制を整備するということであれば、国民は納得してくれるのではないでしょうか。国に対し、財政措置を講じ、特養をきっちりと整備するということを訴えていきたいと思います。
―12年度の介護報酬改定の見通しを教えてください。
今般、税収の大幅減など、社会・経済状況は大変厳しいものがあります。この不況はある程度続くと思われます。報酬を下げることはまずないとは思いますが、効率的な制度運営、公費負担割合の引き上げとともに、職員の処遇改善策の拡充を求めていきたいです。
■新政権はわれわれの目指す方向性と全く変わらない
―民主党は介護職員の月額4万円の賃金アップを掲げていますね。
新政権の動向を見たり、民主党の政策集などを読んだりしました。施設整備のスピードアップや、12年度以降の介護職員の処遇改善策の継続を打ち出すなど、われわれと目指す方向性は変わらないと思います。
また、要介護の高齢者を抱える家族に対する実態調査と、社会的支援を行うことも打ち出しています。民主党を中心とする政権の「脱官僚」が、介護保険制度における「在宅偏重」路線からの方向転換となることに期待を持っています。
―全国老施協と政党とのかかわりはどうなるのでしょうか。
われわれの介護現場が抱える問題点を発信し、解決を求めていくスタンスは、どの政党にも理解されると信じています。政府に対してもお願いしていきますし、前会長の中村博彦参院議員とも連携して、これまで通り介護現場の向上に尽力していただきたいと思っています。
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